研究/都市社会学/コミュニティプランニング

 これまで、都市社会学、コミュニティ論、ローカルガバナンス論の観点から、米国の地域自治組織の研究(ネイバーフッドカウンシル)、日本の地域自治組織の研究(町内会、まちづくり協議会の固有な機能とコミュニティ計画)、米国の「地域社会と自治体構造」の研究を進めて参りました。(そして、ワシントン大学のUrban Studies学部の同僚との研究でのコミュニティプランニング論、またローカルガバナンスにおける地域自治組織をみるにあたっての「都市サービスのデリバリー構造論」をベースとしています。)

☆米国の地域自治組織の研究~Neighborhood Council(ネイバーフッドカウンシル)

 米国の地域自治組織であるNeighborhood Council(ネイバーフッドカウンシル)の研究に従事してきました。

デイトン市でのネイバーフッドカウンシルへの参加と意見交換。中央 前山。
全米コミュニティ協会の父」E.ゲイトウッド博士

 2001年にシアトルのコミュニティカレッジで客員研究員をしていたときに、その市民パワーと、それを柔軟にうけとめて制度構築に取り組む市自治体のありかたに大きな感銘をうけたことから始まりました。
 また、全米コミュニティ協会(Neighborhoods,USA)の前会長エルトン・ゲイトウッド博士には、実践参加へのいざない、全米の諸都市でのネイバーフッドカウンシルの状況、主要市の担当者や市長へのコーディネートなどのお力をいただきました。そして、これまで、シアトル、タコマ(ワシントン州)、バーミンガム(アラバマ州)、デイトン(オハイオ州)などなどたくさんのネイバーフッドカウンシルの場に身を置かせていただくこととなりました。
 そこで、コミュニティ自治組織の設立、自治体での法務と手順、会議アジェンダなどなど多くのことを得てきています。その成果は、著書刊行として公開させていただき、また日本における地域自治組織の設立や推進のスキルとして役立たせていただいています。

ネイバーフッド活動家のJ.エバーハートさんとの意見交換

☆日本の地域自治組織の研究 -町内会、まちづくり協議会

 日本における地域自治組織の活性化と推進を研究しサポートしてきました。

日本の地域自治組織の固有な働きを提起

 特に、少子高齢化の日本においての、地域における諸団体を結手しての、まちづくり協議会の結成と展開を推進してきました。
 米国の地域自治組織のネイバーフッドカウンシルにあってはあくまでも地域の意見のとりまとめにそのミッションがあるのですが、日米の比較研究をすすめるうちに、日本の地域自治組織の「まちづくり協議会」の固有でそして大変に有効な働きがあることが見えてきました。(まちづくり協議会は、ところによって、コミュニティ協議会、まちづくり推進委員会などの名称でもよばれています。1700余の市町村のうち、おおよそ600で採用されている仕組みです。)
 少子高齢化で独居高齢者の方が増えている現在、また少子化で子どものまちづくり協議会が、小学校区などの一定エリアの諸団体を傘の下にいれて、そして自治体からオーソライズされた公式度の高い住民の「代表制」の高いものですが、それだからこそ、その傘のもとに町内会-民生委員-老人クラブなどが一致団結して、独居高齢者の方々の見守りや「いきいきサロン」の開催を実施されておられます。また、その傘のもとに、町内会-PTAの協働での小学生登下校見守りが有効になされています。このことは、米国で、全米コミュニティ教会でお話すると、とても驚かれます。V.オストロムの「都市サービスのデリバリー構造論」で、このような住民自身による都市サービスの供給の可能性がよく解明できるのですが、このような都市サービスの実施が日本の地域自治組織だからこそ実施できていることの誇りを感じています。
 なお、まちづくり協議会の骨格となるのが町内会であることも見えてきました。各自治体、地域の方々に対して、そのメカニズムと必要をお話し、各種のサポートをさせて頂いています。

<関連資料>
・前山総一郎、桒田 悦子、「地域自治組織, 都市内分権組織からみた地域包括ケアシステムについての課題析出の基礎準備研究」『都市経営』11号(2019年)(ダウンロード)http://dx.doi.org/10.15096/UrbanManagement.1105

・前山総一郎「都市内分権」の展開と地域公共サービス : その日本的展開と特質」『都市経営』8号(2015年)(ダウンロード)http://dx.doi.org/10.15096/UrbanManagement.0804

Vincent Ostrom and Frances Bish (eds.), Comparing urban service delivery systems : structure and performance, Sage Publications, 1977
(関連URL)https://ci.nii.ac.jp/ncid/BA13949288

組織の構築や将来ビジョンのための住民「コミュニティ計画」の研究とサポート

 「まちづくり協議会」は、条例や市の要項で設置するといった、固有の法務的な側面があることから、その立上げのプロセスを自治体の方々とともに研究し、推進してまいりました。
 また、「まちづくり協議会を立ち上げてはみたのだけれど、町内会とどう違うかわからないし、そもそも何をしたらよいかわからない」と住民の方、また自治体の方々に戸惑いが出る時期があります。このときには「コミュニティ計画」(まちづくり計画)を町内会やまちづくり協議会でつくりあげて実施することをおすすめしています。
 これについては、米国のコミュニティ計画(シアトル市のNeighborhood Plan)等の調査研究を基に、またコミュニティプランニング論を踏まえつつ、日本の土壌で最も花開くものにむけての研究開発をしてまいりました。
 「コミュニティ計画」(まちづくり計画)とは、まちづくり協議会などが音頭をとって、一定エリア(おもに小学校の学区)の、町内会、PTA、老人クラブ、子ども会、防犯組合、防災会、婦人会、体育会、民生委員協議会などなどの地域にある地域団体が一堂にあつまって、みなでどのような地域の将来像をつくるのか(地区の高齢者福祉3年像、地区の子育て教育3年ビジョン、また地区の産業振興・商店街活性化などなどの柱)を話し合い、そしてそれを、短期・中期・長期にくぎって、かつまた住民だけですること(ボランティア計画)・行政にしてもらうこと・協働でおこなうことに区切って、将来計画を目指します。できるだけ地区の住民の声を広く伺い(全戸アンケートなお)、そして、ワーキンググループが半年から2年ほどかけて、案をつくることが有効となります。(また折々に、行政の方々との連携と信頼関係がとても大切です。本拠のある福山においても、Maeyama-Laboがその実施を提言し、アドバイザーを拝命しつつ2012年から各学区をまわり、そして79の学区で取り組んでいただき、2017年にはすべての学区のまちづくり協議会で策定いただきました。これは本Laboにとって、大きな喜びとなっています。)

<資料>
・前山総一郎『コミュニティ自治の理論と実践』東京法令出版社 ~まちづくり協議会設置・コミュニティ計画策定のテキストとして制作されています。コミュニティ計画の事例は、下記リンクより、79の全ての「学区まちづくり計画」をご覧になれます。(福山市協働のまちづくりHP)http://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/soshiki/kyodo/13938.html  

☆米国の「地域社会と自治体構造」の研究

地域コミュニティと連携できる米国自治体の姿

 米国の地域コミュニティの組織を研究しつつ、それとタイアップし、連携して成果をあげる自治体のありかたに目を向けています。
 かつて基本的には権力志向が強く、トップダウンの傾向を色濃く持っていた米国の核市自治体が、どのように、またどのような過程で、間接民主的な議会制と並行してのしくみとして、地区の「住民の声」をとりまとめて、地区のネイバーフッドカウンシルを条例設置するまでにいったのだろうか。(ネイバーフッドカウンシルの設置は条例で市自治体のプログラムであり、それを運営するのが地区住民活動、という制度設計となっています。)その疑問を基に、地域コミュニティを生かし、よい連携と相乗効果のある市自治体のありかたを探求してまいりました。
 シアトル、タコマ(ワシントン州)、ポートランド(オレゴン州)、バーミンガム(アラバマ州)などの、1970年代から90年代の間での住民の動向と、市議会・行政組織からなる自治体機構のあり様を研究しています。1970年代に公民権運動のパワーでおしすすめたところ(バーミンガム)、1990年代初頭のNPOや市民運動のパワーでおしすめたところ、またそれの媒介を市自治体のなかでコーディネートする動きのありようなどにアクセスしてきました。幅のある状況はあれども、1970年年代半ばから90年代初頭にかけてこれら先進都市が「トップダウン」から「ボトムアップ」(ないし併存類型)に変化したことを示してまいりました。
 この点、「トップタウン」から「ボトムアップ」をへたシアトル市の職員と副市長、タコマ市の職員と市長、バーミンガム市の職員と市長などとの意見交換がとても大きな知的刺激となりました。

シアトル市政策アドバイザーのk.ピットマン氏
タコマ市M.ストリックランド市長(当時)
バーミンガム市W.ベル市長(当時)と議会にて
市民ガバナンスですすめられる米国の小自治体「特別目的自治体」の組織研究  -本邦初の「特別目的自治体」の紹介と、21世紀の自治体への示唆

 このところ、さらに自治体(local government)のありかたとして、米国には約3万の市自治体とならんで、公団のような規模での「小自治体」が実に3万8千団体あることに目を向けてきています。「ハウジングオーソリティ」といった低所得者の公共住宅を担当するものや、歴史市場の保存・経営をするもの、エリアマネジメントをするもの、水道マネジメントをするものなどが、市民生活を支えていることに気付きました。このことは、米国でも一般の方は良く知らず、日本ではほぼ知られていませんでした。そこで、拙著『米国地域社会の特別目的下位自治体』(東信堂)としてその背景・実態・社会的効果について、2020年に刊行させていただきました。
 ちなみに、これらの小自治体は、公共住宅を担当するとか、歴史市場の保存・経営だけを担当するといった形での「特別目的」をおこなうことから「特別目的自治体」(special purpose government)と呼ばれているものです。
実は、特別目的自治体では、市自治体とは異なって、居住市民の評議会のガバナンスが設定されていてその意向がその小自治体の方針と政策とをすすめている点に大きな特徴があることに驚かされました。さらに驚いたことに、小自治体のそれなりのものが、市民からと連邦からの意向を受けて、より市民サービスを深化され方たちでの組織イノベーションをおこなったことでした(2000年前後に全米のハウジングオーソリティなど)。自治体が、市民ガバナンスの意向で動き、そして市民サービスのために組織イノベーションをおこなう・・21世紀・ポストコロナにあっての、日本の自治体にとってもとても大きな示唆と捉えています。

<関連資料>
・前山総一郎『米国地域社会の特別目的下位自治体』(東信堂)

組織改革で全米的に有名なタコマハウジングオーソリティのM.ミラ局長
シアトルの歴史観光市場「パイクプレイスマーケット」
パイクプレイスマーケットの市民評議会の一コマ(前山撮影)