科学研究費補助金の成果

 科学研究費補助金を次の形で得て、調査研究に取り組んでまいりました。通算、10年以上連続して頂戴したことから、各種の論文発表、著書刊行、さらにそれに基づく実践支援活動の基盤の構築に大変に力になりました。(論文成果をダウンロードできます。)

<成果公開>

 科研費の図書成果公開の補助を頂き、下記を刊行する機会をいただきました。

『直接立法と市民オルタナティブ』、お茶の水書房

平成21年度科学研究費補助金(研究成果公開促進)(学術図書)社会科学系 215158『直接立法と市民オルタナティブ 』 和 菊版 498頁 ㈱お茶の水書房*刊行書紹介ページにも掲載しています

趣旨

 直接立法が新たな公共圏に与える位相のありよう(市民統治をめざす新たな公共圏の創世の問題)について、三つの問題構成で提起する。(1)直接立法の成立と展開を推進した住民の運動論とそのバックグランド(思想)、(2)直接立法が地域社会に与えてきたインパクト(作用)、(3)そして、市民が公共につながる権限・権力を直接把持する市民統治の組織化がどのように可能か(市民オルタナティブ)。

<科学研究費補助金>(研究助成)

1)2019-2021年度の補助金

研究科題名:米国都市内分権の政策機能と影響についての基礎的研究
研究課題:19K02081
研究種目:基盤研究(C)
研究開始時の研究の概要:
 本研究は、米国諸都市の都市内分権制度であり、日本の「まちづくり協議会」と制度上類似(条例設置等)とされる「ネイバーフッドカウンシル」(neighborhood council)のダイナミクス(動態相)を、J.ベリーらにより提起され一般化している「民主制論」(市民参加の器の側面を強調する視点)の制約を越えて、ダイレクトにつかみ出そうとするものである。
 そのために、本研究計画では、特に、米国諸都市の「ネイバーフッドカウンシル」が「都市政策と都市ガバナンスに与える実際的影響力とその機能」の実相を、現地調査(ヒアリング調査)、自治体諸計画の検討、政策確認等による「政策分析」を通じておこなうものである。

研究成果 論文

・前山総一郎「米国都市内分権におけるネイバーフッドカウンシルのダイナミクス:タコマ市のネイバーフッドカウンシル調査を基に」『都市経営』12号、2020年2月
(ダウンロード) http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/fcu/metadata/12153

・前山総一郎「サービス供給・公共的決定の地平とローカルガバナンスにおけるネイバー
フッドカウンシル ―コロナ状況下でのホームレス問題への対処とサービス供給をめぐる米国タコマ市(ワシントン州)の調査に基づきー」『都市経営』13号、2021年3月(刊行予定:受理済

研究成果 学会発表

Soichiro Maeyama, Possibility and issues on Urban Devolution organization, “Machizukuri Kyogikai”s as paradigm shift in aging Asia, from view point of Urban Service Delivery System Theory2019
Soichiro Maeyama,Comparing Social Function of Neighborhood Councils in Japan and the USA2018
Soichiro Maeyama,Paradigm Shift to Urban Devolution (Machizukuri Kyogikai) Based on “Residents’ Collective Action” in Aging and Shrinking Cities in Japan -Comparison with U.S. Neighborhood Councils

2)2016-2018年度の補助金

研究科題名:米国の都市内分権の社会的機能に関する基礎調査研究
研究課題:16K04036
研究種目:基盤研究(C)
研究成果の概要:
 本研究は、米国の都市内分権のなかで認定制度化された住民自治組織たる「ネイバーフッドカウンシル」が生活支援サービス(都市サービス)にかかわるありかた(社会的機能)を、現地調査(制度調査、ヒアリング)の解明に努めた。2016及び2017年度には、主要な選定都市(シアトル、タコマ、バーミンガム、ポートランド)での制度設計確認、また都市内分権の編成とその年サービスについての把握に力点を置いた。2018年度にはその上で各都市でのネイバーフッドカウンシルがコミットする都市サービスの運営の実相を確認し、その社会的機能を一定の類型として示した。その成果は、論文5本、国際学会報告5本として公にした。
 研究成果の学術的意義や社会的意義
都市内分権研究において、J.Berryらの民主主義論的・政治学的視点が諸研究においてつよい影響を及ぼしてきた。本研究は、それと全く別の視点として、米国の都市内分権の中で認定制度化された住民自治組織「ネイバーフッドカウンシル」が生活支援サービス(都市サービス)にかかわるありかたを解明しようとしたものである。
研究の遂行を通じて、都市内分権について影響力が強かったJ.Berryらの民主主義論的視点からは見えることのなかった、都市サービス供給システムというダイナミクスの中でネイバーフッドカウンシルの機能のあらたな側面を明らかにする試みを行い、一定の成果を上げたと考える。

研究成果 論文

・前山総一郎「米国諸都市における「ネイバーフッドカウンシル」の社会的機能」『都市経営』11号(2019年)(ダウンロード)http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/fcu/metadata/12134

・前山総一郎「人口減少・高齢化地域における住民自治組織(都市内分権型住民自治組織)のダイナミクスとポテンシャル -コミュニティプランニングの視点から」『日本健康学会誌』第84巻(2018年)(ダウンロード)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kenko/84/6/84_242/_pdf/-char/ja

研究成果 学会発表

Soichiro MAEYAMA, Possibility and issues on Urban Devolution organization, “Machizukuri
yogikai”s as paradigm shift in aging Asia, from view point of Urban Service Delivery System Theory2019, East Asian Sociological Association(東アジア社会学会:国際学会)
Soichiro MAEYAMA, Comparing Social Function of Neighborhood Councils in Japan and the
USA, Neighborhoods, USA(国際学会)2018
Soichiro MAEYAMA, Paradigm Shift to Urban Devolution (Machizukuri Kyogikai) Based on
“Residents’ Collective Action” in Aging and Shrinking Cities in Japan -Comparison with U.S. Neighborhood Councils,(International Sociological Association, XIX ISA World Congress of Sociology(世界社会学会:国際学会)

3)2013-2015年の補助金

研究課題名:米国都市行政における市民事業体の準自治体化(PDA)のガバナンスの位相と法的構造
研究課題:25380691
研究種目:基盤研究(C)
研究成果の概要: 
 平成25年度の「市民ガバナンスの位相」の調査、平成26年度の同「法的構造」調査の上に、平成27年度に「市民統治に基づく経営権能をもつ準自治体」たるPDA(公共開発機構)の諸相を確定し、理論類型化をおこなった。その結果、PDAが、都市経営パラダイムシフトのなかでも、コミュニティ開発法人(CDC)や公民連携とは異なり、次の点で独自の位相と法的構造を持つことを明らかにした。①州の監査下にある現実的コンフリクトの容態、②エリアマネジメントの他広範な諸領域での展開、③その法的安定性ゆえに民間団体も市等一般自治体も不可能な領域で、法的安定性に基づき都市サービスの供給システムに関わる仕組みとなり得ている。

研究成果 論文

・前山総一郎「オリベラル都市開発とエリアマネジメント組織の有効性 : 米国シアトル市におけるエリアマネジメント組織・公共開発機構(PDA)を事例として」『都市経営』第8号(2015年)(ダウンロード)http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/fcu/metadata/12056

・前山総一郎「『都市内分権』の展開と地域公共サービス : その日本的展開と特質」
『都市経営』8号(2015年)(ダウンロード)http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/fcu/metadata/12058

Soichiro MAEYAMA, The Infrastructural Basis for Sustaining Social Services : An Analysis of
the Pike Place Market Public Development Authority and Its Foundation, Urban Management (都市経営),No.7(2015)
Soichiro MAEYAMA,前山総一郎 The Advocacy Function in Area Management and Public
Development Authority: A Case Study of IDEA Space, SCIDpda ,Urban
Management (都市経営),No.6 (2014)
Soichiro MAEYAMA,前山総一郎 Sustainability for Missions for Area Management
Organizations and Public Development Authority (PDA):-Case Study on the Seattle Chinatown International District Preservation and Development Authority, Urban Management (都市経営),No.6 (2014)
Soichiro MAEYAMA, Fundamental Consideration on Public Development Authority in terms
of the Paradigm Shift in Urban Management, Urban Management (都市
経営),No.6, 2013

研究成果 学会発表

Soichiro MAEYAMA, Possibility of Area Management Organizations for “Bulwark” Against
Neoliberal Urbanization ; Thorough the Cases of Public Development Authorities (PDAs) ,18th ISA (International Sociological Association) World Congress of Sociology (世界社会学会:国際学会)

4)2010-2012年の補助金

研究科題名:米国都市行政における市民事業体の準自治体化(PDA)に係る基礎的データベース構築
研究課題:22530563
研究種目:基盤研究(C)
研究概要
「市民の事業体(NPO等)が、市民的運営を保持しつつも、「準自治体」として市当局によって都市行政に組み込まれる」仕組みとしてのPDA(公共開発機構)が着目されている。その制度化での「市民的エートスの保持」という根元的問いを基底におき、その実態と特性を明らかにする基礎的調査を行なった。各種PDAや「PDAの父」へのヒアリングを基とした調査の結果、(1)PDAのデータベースの作成、(2)PDA運営の特性、(3)PDAの形成過程、(4)組織ガバナンスと市民統治、(5)PDAの社会制度化の特質、の5点の研究成果を、日本および米国においてほぼ初めて得ることとなった。

研究成果 論文

・前山総一郎「縮小する集合住宅地に立ち向かう新たなパラダイム再開発の手法の問題と可能性 -米国におけるPPP手法とPDA手法を中心に-」『都市経営』第2号(2013)(ダウンロード)http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/fcu/metadata/11970

・前山総一郎「準自治体Public Development Authority(PDA)の原点と新展開」
『都市経営』第2号(2013)
(ダウンロード)http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/fcu/metadata/11975

・前山総一郎「米国の PDA と日本の先端的PPP との制度基盤比較 -紫波町オガールプロジェクトをベンチマークとして-」『都市経営』第1号(2012)(ダウンロード)http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/fcu/metadata/10464

・前山総一郎「準自治体Public Development Authority (PDA) の起源と法的ステイタス」『八戸大学紀要』第42号(2011)(ダウンロード) http://id.nii.ac.jp/1110/00000025/

・前山総一郎「市民事業体の準自治体化をめぐる基礎研究のための覚え書き -PPPとPDAのディメンション-」『八戸大学紀要』第41号(2010)(ダウンロード)http://id.nii.ac.jp/1110/00000030/

・前山総一郎「 サステナブル都市開発指標の広域総合政策スキームへの影響:「シアトルサステナブル指標」(1993年)の浸透プロセスと社会的位相」『都市経営』第41号(2010)(ダウンロード) https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007840288-00

研究成果 学会発表

Soichiro MAEYAMA, Creating Global Communities thorough Global hoods,
Neighborhoods,USA (国際学会)(2012)
前山総一郎、「準自治体 Public Development Authority (PDA) の起源と法的ステイタス」、
都市内分権研究会(2012)

5)2007-2009年の補助金

研究題目:「市民社会型資本循環」の基盤としての市民統治公団の実態研究:シアトルの事例に基き
研究課題:17530384
研究種目:基盤研究(C)
研究概要 :
 本研究は、「社会にある資金・資本は、地域住民の意向にそった形で公益のために地域住民によってコiントロールされ得るのだろうか」という「市民社会型資本循環」の研究としてなされたのであるが、とりわけ(1)いかに市民は公益のために公の資金・資本をコントロールし得るのか、(2)市民がそのために体現し得るAuthority(公的団体)としていかなる仕組みが組み立てられえるのか、という点を明らかにすることとした。
 ごく最近の、先進諸国のローカルガバナンス国際比較研究(Denters & Lose 2005)、ネイバーフッドプランニング研究の成果(前山 2004)およびローカルイニシアチブの研究をレビューした後、第一部において、米国におけるレファレンダム(住民表決)とイニシアチブ(住民発案)の発達を後づけ、それを通じて、ローカルイニシアチブが「民主的ガバナンス」の有効なツールなってきていることを示した。つづく第二部において、ローカルイニシアチブの手法を通じて、シアトルモノレールプロジェクト(SMP)なる巨大プロジェクトが、「市民主導」(Citizen-initiated)公団として推進されるという未曾有の自体が進展したことを、論者自身のインタビュー実施調査データによって示した。
 その結果以下の成果が得られた。(1)SMPにあっては、「市民の手による公団」が、イニシアチブにより設置され、かつ同公団が市の助力なしに純粋的に市民評議会により運営されたこと、(2)SMPは、課税イニシアチブ(Levy Voting)を通じて、そのための約1900億円の座財源として「自動車使用税」を56万台の自動車所有者に賦課することに成功し(徴収はカウンティ政府を通じて)、かつ地域経済にとって1.3%の雇用増、2.12%の売上税増を見込んだこと、(3)他方、限界に関わることとして、「市民の手による公団」のための基盤と手続きは未成熟であり、市による敷設不許可という大きな障害を経ざるをえなかったこと、(4)社会的意味としては本ケースが、「市がゾーニングと予算をもつ」対「特定領域でプランニング権を得た市民公団」の図式を呈していたこと、の4点である。一言で言えば、ローカルイニシアチブ(Levy Voting)が、単なる投票行為・投票コントロールを超えて、「市民立公団」として自立した実施主体の設置を可能としたことを意味し、また、それはこの未曾有の状況ゆえに、アメリカでは、市政府VS市民自治にかかわる法務、管轄権問題として衝突が明らかになった瞬間と言える。

研究成果 論文

・前山総一郎「社会変動におけるネイバーフッドマッチングファンド」『産業文化研究』2007(ダウンロード) 
https://research.hachinohe-u.ac.jp/wp-content/uploads/2016/03/journal16-01.pdf

・前山総一郎「孤独なボウリング-米国コミュニティの崩壊と再生(評論 ロバート・D.パットナム著(柴内康文訳)」『社会学研究』第81号(2007)

・前山総一郎「アメリカにおける市民主導型課税意向投票(Levy Voting)の形成と背景-
「市民型資本循環」の視点から-」『八戸大学紀要』第32号(2006)(ダウンロード) http://id.nii.ac.jp/1110/00000267/

・前山総一郎「公共性のためのデバイスとしてのコミュニティ自治組織の可能性に関する一考察」『ヘスティオとクリオ』第4号(2006)

・前山総一郎「『市民社会型資金循環』研究にむけての予備的考察」『八戸大学紀要』第31号(2005)